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準々決勝:私たちがこのゲームをやる理由
Melissa DeTora(アメリカ) vs. Tom Martell(アメリカ)

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メリッサ・デトラ/Melissa DeTora(ウルフラン・バント) vs. トム・マーテル/Tom Martell(「貴種」)

 トム・マーテルはこの試合に勝つことはできない。

 いや、言い直そう。トム・マーテルはこの試合に勝つことができるかもしれない。仮定の話をするなら、3-0で勝つことだってできるだろう。だが、決戦を迎えたこれらふたつのデッキに触れた者の誰に聞いても、見通しはマーテルにとって良いものではない。

 パトリック・チャピン/Patrick Chapinは、マーテルの操るチームSCGのデッキ「貴種」と比べて圧倒的に有利なウルフラン・バント・デッキと、それを操るメリッサ・デトラを推していた。ルイス・スコット=ヴァーガス/Luis Scott-Vargasはこのマッチアップではまず勝てない、と口にした。そんな「貴種」デッキの後ろ盾となる頭脳は、このマッチアップを有利に立つための壁を乗り越える方法を見つけ出すのに、ホテルの部屋に篭って夜の大部分を費やした。それでも結果はどちらとも言えなかった。

「勝てないかも」しゃれたマフラーを巻いてトップ8の場に入ったマーテルが、そうこぼした。「でも、今僕はジョニー・マジックのマフラーを巻いているんだ。負けるわけにはいかないよ」

 しかし、プロツアーやグランプリ、その他主要な大会には、困難な、あるいは勝ち目のないマッチアップをひっくり返した事例がそこかしこにある。ふと思いつく限りでも、ポール・リーツェル/Paul Rietzlが白ウィニーでジャンドを打ち破ったプロツアー・アムステルダムがそうだし、リード・デューク/Reid Dukeが戦線を完全に掌握されているように見えたバント・コントロールで、エスパー・コントロールに3-0で勝ったこともそうだ。

 私たちがこのゲームをやるのには、理由がある。

 そして今回お届けするのは、才能あるマジック・プレイヤーによる見逃せない、見逃してはいけない試合だ。マーテルには、プロツアーパリ2011で7位入賞とすでにプロツアー・トップ8に名前を載せた経歴がある。このプラチナ・レベルのプロは、昨年のグランプリ・インディアナポリス優勝を含めて、グランプリ・トップ8にも4度名前を連ねている。彼の操る「貴種」デッキ――生け贄によるシナジーを持った白黒赤の人間デッキ――は、特別高速ではないが、その粘り強さは特筆すべきものだ。

 マーテルにとって不運だったのは、このデッキははっきり言って、デトラのウルフラン・バント・デッキのようなものにとっては餌だ、ということだ。ライフを得るクリーチャーと組み合わされる《スフィンクスの啓示》、《至高の評決》、《スフィンクスの啓示》、《スラーグ牙》、そして《スフィンクスの啓示》、おまけに《ケッシグの狼の地》をタッチと、デトラのデッキは生き延び続けた上で「貴種」を圧倒するのだ。さらに、デトラにとってプロツアー・トップ8は初めてのことだが――実を言うと、女性プレイヤーにとって歴史上初めてのプロツアー・トップ8だ――、彼女はグランプリ・トップ8経験があり、彼女のデッキについてきちんと習熟している。

メリッサ・デトラはトム・マーテルを相手に準々決勝を始める。この試合は彼女の勝利に大きく傾いている。

 予感が正しければ、彼女がマーテルを下す可能性は十二分にある。

 だが、もう一度言おう。彼はジョニー・マジックのマフラーを身につけているのだ。

ゲーム1

 マーテルは彼のできる最高のスタートを切った。《教区の勇者》を立て続けに2体出し、そこに《宿命の旅人》を足してゲーム序盤の盤面とライフ総量で優位に立った。しかし序盤のリードを崩すことこそデトラのデッキが為すことだ。《遥か見》から《ケンタウルスの癒し手》の動きは、マーテルの優位を鈍らせたい彼女に最適な動きだった。

 しかしそれでも、その3/3のケンタウルスを前にマーテルは止まらなかった。彼は3/3と2/2と1/1をレッド・ゾーンへ突撃させ、小さい方の《教区の勇者》をブロックによって失った。続けて繰り出された《ボロスの反攻者》が、この試合に勝ち目を得るために必要な攻撃力をその身に宿していた。

 デトラは、相手がさらに攻撃的になったことを恐れるそぶりを見せなかった。《ケンタウルスの癒し手》で《ボロスの反攻者》に突っ込み、3点のダメージと引き換えに3/3同士の相討ちを取った。さらに、《スラーグ牙》がそのダメージを補う以上の回復を見せ、彼女のライフを18まで引き戻した。

デトラは守りに入るようなことをしない。彼女のウルフラン・バント・デッキは、
膨大なライフゲイン手段のおかげで、アグレッシブな線のプレイもできるのだ。

 それでも、マーテルはマナ・カーブに沿って戦い続けた。《ファルケンラスの貴種》が飛び出し、3/3の《教区の勇者》と共に戦場を駆ける。デトラはダメージを受け、ライフを11まで落とした。

 マーテルは、とにかくできる限りのダメージを与えてデトラのさらに強力な脅威が展開される前にライフ・レースを挑む、アグレッシブな戦略をとったようだ。

 ところが、デトラはコストの軽いものを引き込んだ。《ケンタウルスの癒し手》が彼女のライフ総量と盤面の安定を同時にこなし、さらに《拘留の宝球》が《ファルケンラスの貴種》を取り去った。デトラのデッキの強みが表れ始めた。

 新たに投下された2枚の人間――《悪名の騎士》と《教区の勇者》――が、デトラの計算を複雑にし始めた。1枚目の《教区の勇者》が賛美の援護を得て6/6で攻撃し、デトラの防御を抜けて彼女のライフを残り6点まで落とした。

 現在の盤面は、デトラの《スラーグ牙》と《ケンタウルスの癒し手》が、5/5の《教区の勇者》、2/2の《教区の勇者》、《悪名の騎士》、そして《宿命の旅人》と向き合っている状態だ。デトラの手札は1枚だけで、使えるマナは7マナ。マーテルは新たに投下した《ファルケンラスの貴種》に小さい方の《教区の勇者》を生け贄に捧げてほぼ致死量に強化し、デトラの息の根を止めにかかった。

 「ほぼ」致死量にしたのは、デトラの立たせたマナが、往々にして4枚のカードと4点の貴重なライフとなる《スフィンクスの啓示》の予兆であるからだ。マーテルは盤面を犠牲にデトラのライフを1にすることもできたが、彼のライフも9しかなく、《ケッシグの狼の地》による返しの攻撃で負けるリスクがあった。

 そしてまさにその通りに、デトラは《スラーグ牙》で攻撃し、ゲームを終わらせると宣告した。マーテルは《悪名の騎士》と《宿命の旅人》でブロックし、《ケッシグの狼の地》でも倒れないようにした。メリッサはトランプル・ダメージを通すための強化をしなかった。代わりにマナを使ったのは《スラーグ牙》で、彼女のライフは9に上がった。

 マーテルは前のターンと同じ攻撃を繰り返したが、《アゾリウスの魔除け》を合わせられた。マーテルは《ファルケンラスの貴種》をデッキの一番上に戻さず生け贄に捧げることを選び、ターンを返した。

 今度のデトラの攻撃は《ケッシグの狼の地》の支援を受け、マーテルのライフを2にした。彼はトップ・デッキに救いの手を見つけることはできず、ジョニー・マジックのマフラーでも彼を救うことはできなかった。

デトラ 1-0 マーテル

ゲーム2

 《ファルケンラスの貴種》を複数枚、というマーテルのできる最もアグレッシブなドローをもってしても、サイドボード前のゲームを取るには至らなかった。誰もが口を揃えて相性が悪いと言うゲームに勝てず、彼にチャンスなんてあるのだろうか?

 だが待ってくれ、それこそ私たちがこのゲームをやる理由なのだ。

 素早くキープを決めたマーテルが目にしたのは、同じくらい素早くダブル・マリガンを決めたデトラの姿だった。最終的に彼女は、《ロウクスの信仰癒し人》がうまく彼女を軌道に乗せてくれることにほぼ完全に頼り切った手札をキープした。

マーテルは、この勝ち目の薄いマッチアップでもなんとか生き延びている。

 《悪名の騎士》2枚スタートのマーテルに対して、デトラの序盤は効果のない《安らかなる眠り》を置くだけだ。

 4ターン目に《ロウクスの信仰癒し人》が出たものの、《悪名の騎士》のプロテクション(白)のため攻撃にもブロックにもまったく効果的に使えない。マーテルが2体の《悪名の騎士》を持っている限り、《ロウクスの信仰癒し人》はいないも同然なのだ。

 いずれにせよ、ライフを得る時間も多くはなかった。《銀刃の聖騎士》によってマーテルは8点の攻撃が可能になり、デトラのライフを残りわずか4にした。彼女にはマーテルの次のターンを乗り切るためにあまりに多くの助けが必要だった。

 助けは来ず、マーテルが試合をイーブンに戻す。

デトラ 1-1 マーテル

ゲーム3

 3ゲーム目もデトラにとって良い方向へ向かわず、彼女は再びマリガンをすることになった。今度は6枚で留まり、《遥か見》でマナ基盤を整えることから始めた。

 だが、マーテルは座して待つということはしなかった。《教区の勇者》と《宿命の旅人》2枚がデトラに銃口を突きつけ、ショックランド2枚をアンタップ・インしなければならないことが、さらに状況を悪化させた。マーテルが3ターン目を迎える前に、バント・コントロールを使う対戦相手のライフはすでに13となっていた。

デトラは2ゲームにわたって深刻なマリガンに見舞われた。彼女は反撃のためできることをする。

 マーテルは次のターン、アクセルを全開に踏み込んでみた。《魂の洞窟》のおかげでキャストできた《銀刃の聖騎士》を、4/4になった《教区の勇者》と組にしたのだ。しかし、デトラは《アゾリウスの魔除け》を《教区の勇者》に差し向け、続けて《拘留の宝球》を《銀刃の聖騎士》に向けた。

 デトラのタップできる土地が少ないことを活かし――彼女の土地は4枚で止まっていた――、マーテルは《ファルケンラスの貴種》を続かせて、デトラのライフが5まで徹底的に追い込んだ。《アゾリウスの魔除け》がその速攻の吸血鬼を1ターン抑えたが、突きつけられる銃口と厳しいマナ基盤や解答を前に、デトラは「負けられない」ゲームを2回続けて勝つことに希望を託し、カードを片付けざるを得なかった。

デトラ 1-2 マーテル

ゲーム4

 今度は、より良い手札を求めて初手を戻すのはマーテルの番だった。

 そして1ターン目《教区の勇者》から2ターン目《悪名の騎士》、3ターン目《未練ある魂》というより良いものを得た。

 デトラはやや遅いスタートとなった。最初の2枚の土地をタップ・インで置かざるを得ず、《遥か見》を唱えるのは3ターン目まで待つことを強いられたのだ。ライフが13となった彼女は《スラーグ牙》で18へ回復した。ちょうどそのライフの変動のように、デトラのデッキは1ゲーム目までに見せつけた相性の良さを回復した。

 5/3の大型クリーチャーが出るなり、マーテルの攻撃の足を止めた。彼は《未練ある魂》のトークンで突っついたが、それ以上のトークンもクリーチャーも盤面に追加しなかった。

 一方、デトラのデッキは間違いなく十全に動いていた。彼女はためらいなく《スラーグ牙》で攻撃し、《未練ある魂》のトークン1体と《教区の勇者》との交換を取った。もちろん彼女は2枚目の優れたビーストを持っていて、ライフを21まで上げた。

 一方、マーテルは土地を引きすぎていた。なんとかデトラのエンド・ステップに《修復の天使》を瞬速で出すが、他に取れるアクションは手札になかった。

 だがそれは、ドローステップまでだ。《士気溢れる徴集兵》がデッキの一番上から引き込まれ、マーテルはデトラの《スラーグ牙》と合わせて9点のダメージを与えた。これで安全圏だった彼女のライフ総量は12まで落ち込んだ。

ここぞというときの《士気溢れる徴集兵》トップ・デッキが、流れをマーテル寄りに変える。

 デトラはそれに動じることなく、3/3のビースト・トークンと《スラーグ牙》を突っ込ませてマーテルのライフを同じく12にした。彼女の対戦相手と異なるのは、手札には勝負を決め得る《修復の天使》を含めて、動けるものが輝いているということだ。《修復の天使》が《スラーグ牙》を明滅させ、デトラはさらに5点のライフと3/3のクリーチャーを得て、マーテルが繰り出してくるであろうあらゆる形の攻撃を効果的に止めた。

 それでも、マーテルは前進した。賛美で彼の《修復の天使》は攻撃ができるようになったが、それはデトラの全軍攻撃を誘う結果となった。

 そこでマーテルが強烈な一撃を放った。《オルゾフの魔除け》で一度《修復の天使》を手札に戻し、《士気溢れる徴集兵》を明滅させて、デトラの攻撃中に《スラーグ牙》を奪ったのだ。安全そうに見えた、ゲームを終わらせるはずの攻撃が、デトラにとって地雷原へと変わった。

 《アゾリウスの魔除け》を自分の《スラーグ牙》に撃つことで、マーテルにビーストを1体与えるものの、彼女はそれをデッキの一番上に戻して続くターンに唱え直すことができた。マーテルのライフは7まで落ち、手札は空だった。

 デトラの側は合計してもパワーが6なので、マーテルは気兼ねなく一発を狙うことができた。彼女のライフを残り5まで落とすと、《未練ある魂》をフラッシュバックし、それから《悪名の騎士》を投下した。

 《スラーグ牙》がデトラのライフを10に引き戻し、地上を固めた。ところが、マーテルのデッキの一番上がまたもや恵まれていて、《銀刃の聖騎士》がスピリット・トークンと組になった。賛美の誘発2回を合わせて、スピリットが6点のダメージを与え、デトラのライフをまるで安心できない4点にした。

 しかしデトラも《拘留の宝球》でマーテルの危険なスピリット・トークンたちを除去し、やり返した。マーテルの5体の攻撃手に対してブロッカーは3体しかおらず、手札に何か持っていなければデトラは生き残れないだろう。事態を複雑にしていたのはマーテル自身のライフもわずか7であることだ。総攻撃をかければ構えられた《アゾリウスの魔除け》に身を晒すことになり、その時点で敗北が決まってしまう。

 そこで、マーテルはぐっとこらえることを選んだ。ビースト・トークンだけで攻撃し、それから《未練ある魂》を唱えてスピリットを置き直すと、続くターンで致死量以上のダメージを与えることを宣告した。

 どうあろうとこのマッチアップでは勝てない、と言われてきた。誰もがマーテルに勝ち目を見出さなかった中で、今勝利に奇跡が必要なのは、デトラの方なのだ……

 ……それも、マーテルがさらにもう一度良いドローをしなければ、の話だった。引き込んだ《ファルケンラスの貴種》が手札に土地2枚だけを抱えたデトラを乗り越えていった。

相手が圧倒的に有利でも、勝つ可能性がどれだけ低くても、物事が思い通りになることはある。ジョニー・マジックのマフラーを身につけたトム・マーテルにとって、今日こそが不可能を可能にする日だったのだ。

 これこそ、私たちがこのゲームをやる理由だ。

 トム・マーテルが3-1で勝ち抜き、準決勝へ駒を進めた!




(Tr. Tetsuya Yabuki)

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