デックにはアーキタイプというものが有る。
例えば、今回のスタンダードで猛威をふるったVirigian Ratsや青単トロンのように、固有のデックタイプの事をアーキタイプと呼ぶ事も多いが、本来の意味から考えれば、もっと根源的なデックの性質を分類したものをそう呼ぶべきだろう。
ちょっと、概念的な話になりすぎて判りにくいかもしれないが、この意味でのアーキタイプについてはMike Floresが書いたFinding the Tinker Deckというコラムがあるので、未読の方は一度読んでみる事をオススメしたい。
さて、何もフローレスのように厳密にアーキタイプを分類しなくても、もっと直感的に理解できる伝統的に使われてきた4つのアーキタイプがある。ビートダウン・コントロール・パーミッション、そしてコンボだ。
もちろん、万能にすべてのアーキタイプを操れるプレイヤーもいることにはいるのだろうが、多くのプレイヤーはこの中の一つを得意のデックタイプとするプレイヤーが多い様だ。
プレイングが得意、というのが一般的だが、何故かそのアーキタイプだと成績が残せたり、惹かれるデックが(意図してもいないのに)そのタイプに偏っていたりととにかく何かしらのアーキタイプとプレイヤーが関連付けられる事は少なくない。色がプレイヤーと関連付けられる事は多い(例えば藤田 修(京都)の赤・藤田 憲一(東京)の黒・浅原 晃(神奈川)の緑(または5色)等)がアーキタイプもまたそうであるといえるだろう。血液型のようなもの、といったら言い過ぎか。
さて、前置きが長くなったが、今回フィーチャリングされた二人のプレイヤーは奇しくも同じFinals' 99において、斉藤はストンピーと呼ばれるビートダウン、射場本はピットサイクルと呼ばれるコンボで共にベスト8に入賞している。そして、その後もこの二人を語る時には、これらのアーキタイプが枕詞に使われる事が多かった。まさに、それぞれのアーキタイプを代表する二人の対戦と言っても過言ではないだろう。
偏ったパックのおかげで、二人の選択した色は共に赤青。だが、デックの内容は相当に異なっている。
「フォームを崩さない事が一番重要」とドラフト終了直後に筆者に斉藤は語った。
はたして自分のフォームを貫き通して勝利を手にするのはどちらか。
Game 1
先手は斉藤
双方共にマリガンは無し。
斉藤は1ターン目から《ゴブリンの群勢/Goblin Cohort》をキャストする順調な立ち上がり。対する射場本は島を置いて静かにエンド。
2ターン目にクリーチャーをキャストできず、アタック無しでエンドする斉藤の前に現れたのは、《三日月の神/Kami of the Crescent Moon》。ドラフトでは滅多に見ることの無いカードだ。
返すターン、斉藤は喜び勇んで《九輪杖/Nine-Ringed Bo》をキャスト。そして、そのままタップして1点を《三日月の神/Kami of the Crescent Moon》に。…そう、《三日月の神/Kami of the Crescent Moon》1点のダメージを迷う事無く与えたのだ。1点のダメージを受けた《三日月の神/Kami of the Crescent Moon》の神は何事も無かったかのようにその場に残り続けた。何故なら《三日月の神/Kami of the Crescent Moon》は1/3のクリーチャーだからだ。
だが、斉藤は気がつかず、当然《三日月の神/Kami of the Crescent Moon》は墓地へ行くものと思い込んでいた。2マナの青の能力クリーチャーは1/1だろうという固定概念があったのかもしれない。射場本の指摘で1/3と知った斉藤は呆然としたままターンを終了する。1ターン目に召喚されたゴブリンはまだ一回もアタックできていない。
呆然とする斉藤を尻目に射場本は《消し去りの水神/Kaijin of the Vanishing Touch》をキャスト。射場本の守りはますます堅くなっていく。
毎ターン2枚のカードを引いていれば流石に後続が絶える筈は無く、斉藤は《燃える眼のずべら/Burning-Eye Zubera》をキャスト。早々に呼び出されたものの長らく立ちっぱなしだった《ゴブリンの群勢/Goblin Cohort》にやっとこさ攻撃命令が下る。《九輪杖/Nine-Ringed Bo》のおかげでタフネス3のクリーチャーが2体ならんでいた所でかまわずゴーゴー。そう考えれば前のターンに《九輪杖/Nine-Ringed Bo》をキャストしたことにも多少なりとも意味はあったのではないかと思われるのだが…
だが、斉藤はそうは考えなかったようだ。返しのターンに《空麻呂の末裔/Descendant of Soramaro》がキャストされ、アタックした《燃える眼のずべら/Burning-Eye Zubera》が《消し去りの水神/Kaijin of the Vanishing Touch》にブロックされた所で思い出したように一言。
斉藤「射場本さんとやるといつもミスってるような気がするなぁ」
と、頭を抱えながら長考。そんな斉藤を見て射場本は「リラックスリラックス」と声をかける。
その後も順調にクリーチャーを展開し、何とかダメージを与えようと躍起になる斉藤だったがどうにもこうにもドローがかみ合わない。一方で自分のペースを築き上げた射場本はドロー操作を駆使して着々と自分の場を作り上げる。
《伝承の語り部/Teller of Tales》への《岩石流/Torrent of Stone》を《密の反抗/Hisoka's Defiance》でカウンターしてなんとか自分のペースを取り戻せるかとホッと一安心した斉藤が次のターンに見たカードは…
《精神の檻、迷心/Meishin, the Mind Cage》!!
射場本の手札は《三日月の神/Kami of the Crescent Moon》の能力によってマックスの7枚。秘儀と《思考の鈍化/Dampen Thought》の連繋によるお馴染みのコンボを搭載した射場本のデックにはどうあがいても勝てないだろうと踏んだ斉藤は、時間を無駄にしない為に投了する事を選んだ。
なのだが…
実は斉藤のデックには強力なライブラリーを削る能力を持った《雲蹄の麒麟/Cloudhoof Kirin》が入っており、それを除去されるまではまだまだ勝負が一方的についたとも言い切れない状態だったのだ。
射場本の空気にのまれきった斉藤が負けた、と言えるだろう。
射場本 1-0 斉藤
Game 2
サイドボード中に必死に頬を叩いている両名。もう10時間近くマジックを続けているわけで、長旅で疲れた体には相当厳しいだろう。眠気も最高潮なのではないか。
だが、斉藤が頬を叩くのは眠気覚ましの為だけでなく、自分への気合入れだったのかもしれない。
さて、そんな斉藤の願いはビートダウンの神様へ通じたのだろうか? 実際のゲームを見てみたい。
斉藤は1ターン目に《ゴブリンの群勢/Goblin Cohort》を召喚し、そのまま2ターン目も《ゴブリンの群勢/Goblin Cohort》を召喚して、《ゴブリンの群勢/Goblin Cohort》アタック。《朧宮の微風呼び/Oboro Breezecaller》を召喚して、相手の《刃鬣の獏/Blademane Baku》なんて無視してゴブリンは休まず殴り続ける。射場本の援軍が出てこなかった所で気晴らしに《凍らし/Frostling》をキャストして《刃鬣の獏/Blademane Baku》に即能力起動で射場本のブロッカーは根絶やしに。射場本の起死回生の《霜剣山の呪刃/Sokenzan Spellblade》は《岩石流/Torrent of Stone》で除去し、斉藤の軍団は止まらない。
さて、改行抜きで一気に書き上げてみたが、斉藤のビートダウンの臨場感が少しでも伝わっただろうか?
所要時間約3分。完全なるワンサイドゲームである。
斉藤は完全に自分のペースを取り戻したのだろう。心なしかシャッフルする手も早くなっているように見える。
射場本 1-1 斉藤
Game 3
1本目はあまり使われないカードを駆使しつつ、コンボを決める状況を作り上げた射場本が勝利した。2本目は意気をつく暇も与えず、積極的にクリーチャーでビートダウンを展開した斉藤が勝利した。
それぞれが自分のフォームを全力で展開し勝利してきたこのマッチ。最後に笑うのは一体どっちか。
このマッチで初めて先手を取った射場本は、斉藤のお株を奪うかのように山から《ゴブリンの群勢/Goblin Cohort》をキャスト。対するターンに何もキャストできなかった斉藤に《浮き夢のずべら/Floating-Dream Zubera》キャストからのゴブリンアタック。
その後も《月弓の幻術師/Moonbow Illusionist》しか展開できない斉藤に、《霜投げ/Frostwielder》キャストからの連続攻撃。まるで2本目の斉藤を見るかのような見事なビートダウンだ。
さすがに《霜投げ/Frostwielder》は勘弁してくれと《秘教の抑制/Mystic Restraints》をエンチャントする。
だが、射場本は《霜剣山の呪刃/Sokenzan Spellblade》のキャストと攻撃の手を緩めない。
やはり《ねじれた鏡映の神/Kami of Twisted Reflection》程度しかクリーチャーを展開できない斉藤に、《思考の鈍化/Dampen Thought》に連繋した《岩石流/Torrent of Stone》、そして素でもう一発《岩石流/Torrent of Stone》。こうしてキャストされたカードだけを並べていくと、完全に射場本のペースのように思われる。
だが、本来ビートダウンは斉藤の土俵なのだ。
これらの派手な攻防が終わった後に、斉藤が《野蛮な地の鬼/Oni of Wild Places》をキャストしたあとの場を見ると…
射場本 《霜剣山の呪刃/Sokenzan Spellblade》
斉藤 《野蛮な地の鬼/Oni of Wild Places》《ゴブリンの群勢/Goblin Cohort》
なんと、斉藤は大きな差をつけられていない状態にまで持ち返したのである。大きな差どころか、追いついたといってしまっても差し支えないだろう。射場本のリードはライフのみ、それも、まだ斉藤には9点も残っているのである。ビートダウンの猛者は、ビートダウンを知り尽くしているがゆえに、ビートダウンを捌く能力にも長けているのである。
そして、返しのターンで射場本がクリーチャーを展開できないまま《霜剣山の呪刃/Sokenzan Spellblade》と《野蛮な地の鬼/Oni of Wild Places》の相打ちを選択し、斉藤が《灰燼の大怪物/Ashen Monstrosity》をキャストして殴った所で立場は逆転した。
今度は斉藤が展開するクリーチャーを射場本が捌く展開になった。斉藤が自分の土俵に相手を引きずりこんだのである。
射場本も何とか捌き続けたが、斉藤のクリーチャー群の前になすすべも無く投了するしかなくなった。
空から射場本にトドメをさしたクリーチャーは、負けたGame1で斉藤にその存在を忘れられていたクリーチャー…そう《雲蹄の麒麟/Cloudhoof Kirin》であった。
なるほど、自分のフォームを忘れなかった時に勝利は舞いこんで来るらしい。
射場本 1-2 斉藤
蛇足だが、Blogの方で斉藤と射場本も着席していた4番卓を特集しているので、ご一読あれ。