Luis Scott-Vargas(アメリカ) vs. Gabriel Nassif(フランス)
このマジックというゲームでは、プレイヤーは、次元を渡る能力を持った「プレインズウォーカー」となり、様々な次元から集めた魔法やクリーチャーで対決をする。
それは、設定の話で、現実として次元を渡るわけではない。もちろん「マジックの世界」で次元旅行をするのは非常に楽しいものだ。
だが、たまに、本当に別の次元から渡ってきたのではないか、というプレインズウォーカーが、プロマジックの世界に登場することがある。
「ジョニーマジック」Jon Finkel(アメリカ)しかり、「ジャーマンジャガーノート」Kai Budde(ドイツ)しかり、どちらも、別の次元でマジックをやっていたプレイヤーとして語り継がれている。
そして、彼らに次ぐ、第三の別次元の男となるのは誰か、とここ数年、トーナメントシーンでは議論され続けている。
しかし、この議論の結論が、きっと、今日、あと1時間もすればだされることだろう。
なぜなら、このプロツアー京都のアリーナで、決勝戦を戦うこのふたりこそ、別次元の男と呼ぶにふさわしい実力を持っているのだから。
Gabriel Nassif(フランス)は、プレイングスキル・デック構築能力、そしてプロツアートップ8入賞9回目という実績のどれをとっても、フィンケル・ブッディに並ぶ次元のプレイヤーと呼ぶにふさわしい男だ。
ただ、Nassifには、決定的に足りないものがあった。
それは、プロツアーの個人タイトルである。そして、その一点が、Nassifが「第三の男」と認められない理由だったのである。
Nassifにとって、この決勝戦で勝利するということは、すなわち、欠けた最後のピースを埋めることに他ならないのである。
Luis Scott-Vargas(アメリカ)は、Nassifに比べると、その実績は少ないかもしれない。
だが、それはNassifのキャリアを考えれば当然の話である。
この半年間の実績だけをみれば、Luis Scott-Vargasを超えるプレインズウォーカーは存在しない。
プロツアーベルリンで個人タイトルをすでに獲得しているだけでなく、グランプリも2勝している。
そして、もしも、この京都でタイトルを獲得したとすれば、それは(世界選手権をのぞけば)プロツアー2連勝ということになるのだ。
マジックの歴史上で、プロツアー2連覇を果たしたプレイヤーは、Kai Buddeをのぞいて他にいない。
ここでLSVがタイトルを獲得すれば、誰もが、別次元の男であると認めることだろう。
ふたりの男の対決を前に、心なしか、アリーナの空気もかわってきたように感じられる。
Game 1
後手のLSVが3ターン目にキャストした《台所の嫌がらせ屋/Kitchen Finks》がお互いのファーストアクションという静かな立ち上がり。
そんな中でも、Nassifはゆっくりと、土地を並べ続ける。
《台所の嫌がらせ屋》のライフゲインをのぞいたら、初めてのライフの変化が訪れる。LSVは《台所の嫌がらせ屋》と《変わり谷/Mutavault》をレッドゾーンに送り込み、Nassifのライフを5点削る。
ゆっくりしていたゲームが、ここから一気に動き出す。
このターンエンドにNassifは《火山の流弾/Volcanic Fallout》をキャストし《変わり谷》を除去しつつ、《台所の嫌がらせ屋》を頑強させる。
そして、また、Nassifは土地を置いて、ターン終了。
LSVは、パワーが2となった《台所の嫌がらせ屋》でアタックし、Nassifのライフは自身の《火山の流弾》のダメージも含めて、11に。一方のLSVは2枚目の《台所の嫌がらせ屋》をキャスト。これは《砕けた野望/Broken Ambitions》でカウンターされてしまったものの、ライフはまだ22も残っている。
Nassifは、ゆっくり並べ続けた土地が、6枚になるやいなや、《若き群れのドラゴン/Broodmate Dragon》をキャストし、ゲームをさらにエクストリームさせる。
このフルタップの隙にLSVは《潮の虚ろの漕ぎ手/Tidehollow Sculler》をキャスト。Nassifの3枚の手札が、土地に《謎めいた命令/Cryptic Command》《羽毛覆い/Plumeveil》だとわかると、もう1枚の《潮の虚ろの漕ぎ手》もキャストし、Nassifの手札を土地のみとする。
Nassifは《恐怖》で除去されてしまうドラゴントークンをアタックさせ、より屈強な《若き群れのドラゴン》本体を守りに残す。
LSVとしては、《若き群れのドラゴン》を超えられるサイズまで《潮の虚ろの漕ぎ手》を成長させなければならない。
そのために、《黄金のたてがみのアジャニ/Ajani Goldmane》をキャストする。
この《黄金のたてがみのアジャニ》が《砕けた野望》され、激突でお互いのライブラリートップが明らかになる。
LSVのライブラリートップは、《幽体の行列/Spectral Procession》。
Nassifのライブラリートップは、《火山の流弾/Volcanic Fallout》。
もう、この時点で、残りの展開が誰の目にも明らかとなった。
Nassifは2体のドラゴンでアタックすると《火山の流弾》をキャストする。
《潮の虚ろの漕ぎ手》がキャッチしていた《謎めいた命令》がNassifの手札に戻っていくのを見ると、LSVは投了する。
Nassif 1-0 LSV
Game 2
LSVは2ターン目の《潮の虚ろの漕ぎ手》で《熟考漂い/Mulldrifter》をキャッチすると、3ターン目に《苦花/Bitterblossom》、4ターン目に《栄光の頌歌/Glorious Anthem》と常に1マナ残しながら強力エンチャントを展開していく。
続く《台所の嫌がらせ屋》こそ《霊魂放逐/Remove Soul》でカウンターしたNassifだったが、4ターン目に土地がとまってしまう。
2/2となったフェアリートークンの打撃力は大したもので、Nassifのライフは10まで削られてしまい、そしてさらに《潮の虚ろの漕ぎ手》と2体のトークンがライフを削ろうとレッドゾーンまで飛び出してくる。
これは、さすがにちょっと、と、Nassifは《噛み付く突風、ウィドウェン/Wydwen, the Biting Gale》を瞬速でキャストし、2/2をブロックして生き残らせるか小考した後に、3/3の《潮の虚ろの漕ぎ手》と相打ちさせ、《熟考漂い》を取り返す。
LSVは《雲山羊のレインジャー/Cloudgoat Ranger》をキャストするのだが、Nassifも《蔓延/Infest》で対抗する。
だが、巨人は《黄金のたてがみのアジャニ》のバックアップをうけて、強烈な一撃をNassifにあたえ、Nassifのライフは1となる。
この巨人こそ《神の怒り/Wrath of God》で打ち倒し、続いてでてきたフェアリートークンも《噛み付く突風、ウィドウェン》で討ち取る準備をする。
だが、LSVは、きちりと2枚目の《栄光の頌歌》をキャストして、トークンを3/3にしてからアタックする。これでは《噛み付く突風、ウィドウェン》もただの相打ち要員にしかならない。
Nassif 1-1 LSV
Game 3
先手のNassifがマリガンすると、そこには土地のない手札が。さらにマリガン。
続く5枚の手札に土地は1枚だったが、Nassifはこれをキープする。一方のLSVもワンマリガン後に、土地が2枚の手札をキープする。
お互いに土地の枚数に不安のあるスタートだったが、さすがは別次元のプレインズウォーカーたち。早速のドローで、お互いに1枚ずつ土地を手に入れる。
LSVは3ターン目までよどみなく土地をおきつづけ、《台所の嫌がらせ屋》をキャスト。一方のNassifも、2枚で1ターン止まってしまったものの、すぐに土地を引きはじめる。
むしろ、先に土地が止まってしまったのはLSVの方だった。
土地が止まっているものの、とりあえずは3マナ確保できているLSVは、2体目の《台所の嫌がらせ屋》をキャストする。
Nassifは、この2体の《台所の嫌がらせ屋》を、LSVのターンエンドの《火山の流弾》と自身のターンの《蔓延》で対処。ここでLSVは追加のクロックとして《幽体の行列》をキャストする。
このスピリットトークンを強化させる《栄光の頌歌》は《否認/Negate》でカウンターされてしまい、なおも土地が3枚のままのLSVにとっては、少し厳しい状態が続く。
一方のNassifは、土地を5枚までのばした上で、今度は《熟考漂い》をキャストし、強引に土地を引き込み、マナベースを充実させていく。
しかし、このNassifがフルタップした絶好のタイミングで、LSVは4枚目の土地をドロー。《黄金のたてがみのアジャニ》をキャストし、その能力で2/2となったスピリットトークン3体でアタックする。このうち1体をNassifは《熟考漂い》と相打たせる。
Nassifは《真髄の針/Pithing Needle》をキャストし、《黄金のたてがみのアジャニ》を指定。実質的な無効化に成功するが、ついにLSVが土地を引きはじめる。
ここで、5枚目の土地を引いたLSVは、必殺の《頭脳いじり/Head Games》。
これによって手札をすべて土地にされてしまったNassif。
《若き群れのドラゴン》《砕けた野望》とトップデックを続けるNassifだったが、《雲山羊のレインジャー》で稼がれた頭数が、《栄光の頌歌》で増強されてしまうと、ライフを守りきるだけのリソースが足りないのであった。
Nassif 1-2 LSV
Game 4
準決勝でも、1本目をおとしつつも、危なげなく3連勝したLSV。
いや、アレは危なげなくなんてものではなく、完全にLSVの世界だった。
そして、この決勝でも、2連勝から、一気にNassifを追い詰めていく。
LSVがマリガンしたのに対して、Nassifは土地が2枚の手札をキープする。
しかし、ここからNassifは土地を引かない。
LSVの《台所の嫌がらせ屋》を《砕けた野望》でカウンターし、激突でめくれた《天界の粛清/Celestial Purge》をライブラリーの下に送り込んで、やっと《鮮烈な湿地/Vivid Marsh》を手に入れる。
LSVは《黄金のたてがみのアジャニ》をキャストするが、場にクリーチャーがいないため、忠誠カウンターと、自身のライフを増やし続ける。ここで4枚目の土地を引いていたNassifは、さらにドローを進めるために、このカウンターが乗り切った《黄金のたてがみのアジャニ》をLSVの手札に戻す。
改めてキャストされた《黄金のたてがみのアジャニ》を《謎めいた命令》のカウンター+ドローのモードでカウンターする事で、2ターン連続で2枚ドローし続けたNassifは順調に土地を伸ばしていく。
LSVは《苦花》をキャスト。これはいったん場に出たものの、続いてキャストした《潮の虚ろの漕ぎ手》をカウンターするついでのように《謎めいた命令》で手札に戻されてしまう。
ここで手札のカウンターが《否認》のみとなってしまったNassifは《エスパーの魔除け/Esper Charm》でドローを進める。
LSVは《苦花》を通すと、続いて《潮の虚ろの漕ぎ手》。前述の通り、手札に《否認》しかもたないNassifは、これをカウンターできず、《残酷な根本原理/Cruel Ultimatum》がキャッチされてしまう。
といってもそれは一瞬の話で《蔓延/Infest》がNassifの手に《残酷な根本原理》を戻す。
LSVが《雲山羊のレインジャー》、Nassifが《若き群れのドラゴン》とそれぞれの主戦力を展開。LSVはさらに《黄金のたてがみのアジャニ》をキャストするが、Nassifは長考の末にこれをスルー。LSVは、+1/+1カウンターで自身の軍勢をじっくりと育て続ける。
この間に、Nassifは2体のドラゴンでアタックし、LSVのフェアリーにチャンプブロックさせた上で、さたなる《若き群れのドラゴン/Broodmate Dragon》を追加する。
NassifがLSVを圧倒する。
そう見えた場だったが、ここからLSVのゾーンがはじまる。
まず、ドラゴントークンを1体《恐怖》で除去すると、《黄金のたてがみのアジャニ》の能力で、《雲山羊のレインジャー》を5/5にまで成長させる。
飛行することすら可能なこのクリーチャーを前に、Nassifは自身のドラゴン軍団を攻撃に向かわせるべきか否かを長考し、結果、3体とも突撃させる。ここで、《雲山羊のレインジャー》がドラゴンを撃ち取ると、LSVは《遍歴の騎士、エルズペス/Elspeth, Knight-Errant》に《否認》を消費させた上で秘匿で《頭脳いじり》!
そう、LSVはここでNassifを逆転したのだ。
手札をすべて土地にされてしまった上に、続くドローは土地というNassif。もはや、自身を守るものは《若き群れのドラゴン》だけだ。
じっくりと、ゆっくりと《雲山羊のレインジャー》で守りを固めつつ、《苦花》から増え続けるフェアリートークンでNassifを倒す機を、そして、自身の2連覇の機を待つ。
Nassifはいったん《火山の流弾》でフェアリートークンを一掃し、《熟考漂い》をキャストして、それでチャンプブロックをすることで、なんとかライフを守り、ゲームを長引かせようとした、いやしているように見えた。
そう見えたのは、そのターンの終了時までだった。
LSVは、自身のターンエンドにキャストされた《火山の流弾》によってフェアリートークンが一掃され、ドラゴントークンのダメージが通ってしまうことを、そして自分のライフが無くなることを知ると、実は追い詰められていたのは自分の方だったことを知ったのだった。
Nassif 2-2 LSV
Game 5
もはや、Game 4で、Nassifがゲームをコントロールしきったことで、格付けがすんでしまったのだろうか。
それくらいにGame 5はあっけないゲームだった。
LSVはダブルマリガンでのスタート。
初動の《台所の嫌がらせ屋》が《砕けた野望》でカウンターされると、続くターンには、土地をセットしつつ、《変わり谷》でアタックする。
手札に《火山の流弾》を2枚抱えるNassifは、LSVの2回目の《変わり谷》アタックで、違和感に気がつき、ターン終了時に《火山の流弾》で《変わり谷》を除去する。
すると、そのままLSVは土地をセットし続けるのみでターンを返す。《台所の嫌がらせ屋》をキャストし、《謎めいた命令》でカウンターされたターンに後続が続かない。
それもそのはず、LSVの手札はすべて土地なのだ。
続く《雲山羊のレインジャー》も《霊魂放逐》されてしまう。LSVとしては、引いたカードが通ることに期待してキャストするしかないのだが、Nassifの手札は、これ以上ないほどに充実しているのだ。
そして、ついに7枚の土地を並べたNassifは、《残酷な根本原理》でLSVの3枚の手札をすべてたたき落とす。
LSVも、ここで《雲山羊のレインジャー》をトップデックする事で、意地を見せるのだが、Nassifは安全確認の後に《若き群れのドラゴン》をキャストし、完全なるウィンコンディションとなる。
LSVは、《雲山羊のレインジャー》をアタックさせ、ドラゴンと相打つのだが、キスキン3体とドラゴン1体がにらみ合う予定が《火山の流弾》で狂わされる。そう、もう、LSVの世界は終わり、完全にNassifの世界なのだ。LSVにプランを構築する権利はない。
Nassifは、《残酷な根本原理》とドラゴンのアタックで、LSVのライフを2とする。
最後のターンのドローに望みをかけるLSV。
しかし、ドロー後にキャストされた《エスパーの魔除け》の前では希望を持つ権利すら与えられないのだった。
Nassif 3-2 LSV
Nassifは、この京都で、自身に欠けた最後のピースを埋めることとなった。
今、この瞬間に、Nassifは、フィンケル・ブッディと並ぶプレインズウォーカーとなったのだ。そう、いつまでも2大巨頭とばかりはいってられないのだ。
変化こそ、マジックの大きな特徴のひとつである。
アメリカは、LSVの登場によって、新たな時代に突入したが、日本でも、確実に新しい時代の足音が聞こえてきている。
次のプレミアイベントは、四月中旬に神戸でのグランプリが予定されている。
果たして、神戸ではどのようなムーブメントが待っているのだろうか。